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コラムColumns来日するマン-Uの解剖---日本勢はいかに戦うか?。

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来日するマン-Uの解剖---日本勢はいかに戦うか?
2013-07-22 12:00 RSS

前で奪うFマリノス、つなぐセレッソ、臨機応変のマン-U 

 プレミアリーグ開幕直前のツアーで来日するマンチェスター・ユナイッドのサッカーをデータから読み解いてみます。日本ツアーで対戦する横浜Fマリノス、セレッソ大阪とJリーグ全体の平均値を比較しながら見ていきましょう。
 まず、流れの中から得点になったプレーが、ピッチのどの地点でボールを奪取したことから始まっているかを見てみました【表1】。

 Jリーグ全体では6分割エリアの5番目、つまり自陣ペナルティエリア前の地域で奪ったボールから得点につながるケースが最も多い(24.3%)のに対し、Fマリノスではその一つ手前、すなわちハーフウェイラインから自陣に侵入してすぐの地域で奪ったボールからの得点が一番多い(35.7%)ことがわかります。さらにFマリノスは、相手ペナルティエリア直前の地域で奪ったボールからの得点も全体の約4分の1(28.6%)を占めています。Fマリノスが攻守の切り換えを巧みに行い、Jリーグの他チームよりも高い位置でのボール奪取と得点を成功させていることがわかります。

 セレッソ大阪は自陣の最も深い地域で奪ったボールからの得点が40.0%と圧倒的に高い割合になっています。ポゼッション、ビルドアッブをチームカラーとし、後方から丁寧にパスをつないで得点に至るセレッソのプレーがデータでも裏付けられています。
 一方、マン-Uは、Fマリノスと同様、自陣に侵入してすぐの地域でボールを奪取し得点している割合が最も高くなっています(29.0%)。しかし、Fマリノスと大きく異なるのは、自陣の最も深い6番目の地域でボールを奪ってからの得点が二番目に多く、約4分の1(25.8%)を占めていることです。
 これは、まずプレミアリーグのレベルが高く、マン-Uといえども自陣深くまで攻め込まれる回数が多いと言うことでしょう。同時に、その深い位置で奪取したボールを、途中で奪われることなく、きちんとビルドアップして展開し、最終的に得点にまで結びつける力も備えているということを示しています。高い位置で奪った場合も、後方からビルドアップした場合も、どちらでも得点できるということでしょう。


 

 【表2】は、流れの中から得点になった一連のプレーに、何本のパスが含まれているかを見たものです。Jリーグ全体とFマリノスには大きな差はなく、奪ってから2本以内、3~5本以内、6本以上が、それぞれ約3分の1になっています。ところがセレッソは6本以上のパスからの得点が50.0%と半分を占めていて、いわゆる「つなぐプレーからの得点」の比率が非常に高いことがわかります。
 マン-Uも、6本以上のパスによる得点が45.2%と最多になっています。もちろん、この全てが自陣ゴール前からのビルドアップばかりを示すのではなく、相手ゴール前で多彩なパス交換を示すものでもあるでしょう。早くシンプルに、という印象の強いイングランドサッカーですが、このように、つないだプレーからの得点率も高いことを意外に思われる方も多いかもしれません。
 いずれにせよ、マン-Uがどの地域でどのようにボールを奪い、どのような形で得点に結びつけるプレーを披露するのか、非常に興味深いと思います。対する日本勢では、まずFマリノスは、データが示すように高い位置でのボール奪取からの得点に4分の1の活路があるわけですから、その狙い所でいかにボールが奪えるかが大きなポイントになるでしょう。セレッソ大阪は、Jリーグでの試合と同様につないで回してマン-Uから得点が奪えるのか、注目したいと思います。

 

得点はFマリノスが右から、マン-U は左から

 横浜Fマリノスとマン-Uがそれぞれ、どのようにボールを動かして得点を挙げているかを見てみましょう。【図1】はそれぞれのチームで、流れの中から生まれた得点がピッチのどの地域を経由しているかをエリア別のプレー数で表したものです。

 Fマリノスは、ハーフウェイラインから自陣に入ってすぐ、センターサークル右付近でのプレーが11回(15.3%)と最多です。次に多いのがアタッキングサード右側、ペナルティエリア右角付近の地域で10回(13.9%)です。これらのデータから、コンパクトな守備で中盤の高い地域でボールを奪い、右サイドに展開してからの得点、という形がFマリノスの最も得意とするパターンであることがわかります。
 一方マン-Uは、アタッキングサード左側、ペナルティエリア左角付近の地域でのプレーが22回(9.8%)で最多です。マン-U の得点がこの地域を経由したプレーから生まれることが多いのは、得点源の一人ファン・ペルシーが左利きで、その地域に進出する回数が多いからと推測されます。ペナルティエリア左角付近でファン・ペルシーに良い形でボールが渡るような場面になった時、得点に結びつくことがかなり期待できるということでしょう。
 アタッキングサードの中で、このファン・ペルシーの得意ゾーンの次にプレー数が多いのは、そのゾーンの隣、左ゴール正面近くで16回(7.1%)です。ここはファン・ペルシーはもちろんですが、もう一人のストライカー、ルーニーもよく進出してくる地域です。このペナルティエリア左側の2つのゾーンは、マン-Uの対戦相手にとっては最も危険な場所といえるでしょう。
 もう一つ、注目すべきは、マン-U の中盤です。相手陣内に進出してすぐの右サイド付近での16回(7.1%)、その後方の13回(5.8%)、自陣のセンターサークル右側付近の17回(7.6%)、この3つの地域でのプレー数は左サイドと比較して多くなっています。キャリック、スコールズ、クレバリーといったセントラルMF陣とラファエル、スモーリング、ジョーンズら右サイドバックがこの中盤右寄りの位置でパスを交換し、相手守備陣をこのサイドにスライドさせ引き寄せた後、左にサイドチェンジしてファン・ペルシー、あるいはルーニーにつなげる、というのがマン-Uの黄金パターンなのかもしれません。

 今回、残念ながらルーニーは来日しませんが、ファン・ペルシーが活躍するペナルティエリア左角付近(守備側では右角付近)のゾーンをしっかり抑えることと、中盤右サイド(守備側では左サイド)での展開を封じ込めることが、セレッソ大阪とFマリノスの守備の課題といえるでしょう。

 

香川はいまだマン-U の主役には届かず、中村はFマリノスの堂々たる大黒柱

 繊細なボールタッチを武器に強豪マン-Uの一員として堂々とプレーしている香川真司。テクニシャンとして日本サッカーを支えてきた横浜Fマリノスの中村俊輔。日本が誇る二人のファンタジスタのプレーをボールにかわったプレーエリアで比較してみました【図2】。

 まず香川ですが、最もボールに触れているのが、相手陣内に進出してすぐのセンターサークル左側で9.8%。そのすぐ左横のタッチライン付近が8.8%、自陣センターサークル左側付近が7.5%でこれが上位3地域になっています。

 マン-Uチーム全体で見ると、自陣に入ってすぐのセンターサークル左側は香川の最多プレー地域と重なりますが、その他は中盤右側にプレーが集中していることがわかります。先ほど、マン-Uのプレーのうち、中盤右とペナルティエリア左角付近を通過したものが最も得点に関係することを紹介しました。そのことと合わせて考えると、マン-Uの中盤右サイドで組み立てられるプレーが重要な意味を持っていることが再確認できます。
 香川が最もボールに多く触れている地域は、残念ながらマン-U全体のプレーとしては主要な地域ではありませんでした。その意味では、香川はまだマン-Uでゲームメイク、チャンスメイクの主役にはなっていないといえます。もちろん、マン-Uは世界有数の強豪チームで、香川の出場時間の絶対数もまだ十分ではありませんから、拙速に多大な結果を求めることは酷でしょう。今後、出場時間が増えるにつれて、香川自身の最多プレーエリアとチームのそれとが合致するようになることでしょう。


 さて、中村俊輔の場合は自身のプレーが多い地域が中盤左サイドのハーフウェイライン前後(10.8%、9.1%)で、それはチームの最多プレー地域(7.8%、7.6%)と重なっています。中村がFマリノスのゲームメイクに重要な役割を担っていることがわかります。
 さらに注目したいのは、中村のもう一つの主要プレー地域がアタッキングサードの右サイド(9.1%)ということです。ここはチーム全体のプレー頻度としては5.6%で決して上位ではありません。しかし先ほど、Fマリノスの得点に至るプレーの通過地域として2番目に多い(13.8%)エリアであることを紹介した場所です。言い換えると、このアタッキングサード右側で中村がボールに絡んだ時、そのプレーが得点に結びつく可能性が高いということが予測できます。
 中村はFマリノスの中でゲームメイク、得点ともにキーマンになる働きをしている大黒柱であることは間違いありません。セルチック時代、欧州CLでマン-Uから鮮やかなFKで得点をもぎ取った中村が、今回、どのようなプレーを披露するか楽しみです。


筆者:永井洋一

<プロフィール>
スポーツジャーナリスト。
1955年横浜市生まれ。成城大学文芸学部マスコミュニケーション学科卒。
スポーツを技術、戦術のみならず、科学、心理、教育、文化等の視点からも分析、評論し、執筆活動を展開する。自ら主宰するNPOのサッカー指導者としても日常的に現場に立つ。
イングランドサッカー文化に造詣が深くJスポーツ・プレミアリーグ解説者としても活躍。著書に「カウンターアタック---返し技・反撃の戦略思考」(大修館)、「日本のサッカーはなぜシュートが決まらないのか」(合同出版)、「スポーツはよい子を育てるか」(NHK出版)など。

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■関連ページ
香川真司のプレミアリーグ1年目を振り返る
http://www.football-lab.jp/column/entry/354/

香川真司マッチレポート (3/2 ノーリッチ戦)
http://www.football-lab.jp/column/entry/301/
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