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ゴール期待値でJ1選手のシュート能力を評価する
先日、Football LABでゴール期待値の紹介を行った。おさらいをしておくと、ゴール期待値は「シュートチャンスが得点に結びつく確率」を0~1の範囲で示す指標であり、シュート1本1本に対して付与される値だ。
前回のコラムでは、ゴール期待値を用いて2019 明治安田生命J1リーグのチーム分析を行ったが、今回はより対象を狭め、選手に対して分析を行ってみよう。読者のみなさまがゴール期待値とその利用法に対する理解を深めることができるよう、詳細に解説を行った。
ゴール期待値の利用方法のひとつとして、合計ゴール期待値とゴール数の比較がある。合計ゴール期待値は選手が決めると期待されたゴール数を示すので、選手が実際に決めたゴール数と比較することで、選手を評価するのだ。
表1は、2019 J1リーグにおけるシュート数が50以上の選手をピックアップし、ゴール数と合計ゴール期待値の差分が大きい選手から順に並べたものである(オープンプレー中に発生したシュートのみ対象)。

表1. 2019明治安田生命J1リーグにおいて、ゴール数と合計ゴール期待値の差分が大きい選手(オープンプレー中のシュート数が50
期待値より4.58点多くゴールを決めて1位となったのは、J1最優秀選手賞を獲得した横浜F・マリノスの仲川輝人だ。2位には日本代表デビューを果たしたヴィッセル神戸の古橋亨梧が差分+3.32でランクインし、3位にはガンバ大阪の倉田秋が差分+2.40で入っている。
より詳細な分析を行うため、ランク1位の仲川に焦点を当ててみよう。仲川は今季75本のシュートを放ち、各シュートに付与された期待値を合計すると10.4点となる。先述の通り、仲川は期待値より約4.6点多い15ゴールを決めているが、これはどのくらい凄いのだろうか?
ゴール期待値はJ1リーグのシュートデータを学習させたAIによって算出される。算出された値は、J1リーグの平均的な選手(※)がシュートを打った場合のシュート成功確率に近いと考えることができる。この性質と統計学の考え方を使うと、平均的な選手が仲川と同じシュートチャンスを経験した場合に期待されるゴール数をシミュレートすることができる。
仲川が経験した75回のシュートチャンスにおいて、平均的な選手が決めると期待されるゴール数の分布を図1に示した。仲川が示した合計ゴール期待値である10.4点に最も近い10点を頂点とし、山なりに広がった分布となる。この分布より、平均的な選手がちょうど10ゴールという記録を残す確率は、約13%であることがわかる。

図1. 横浜FM 仲川と同じシュートチャンスを平均的な選手が経験した場合のゴール数の分布
仲川が実際に決めたゴール数は15であり、山の裾あたりに位置している。平均的な選手のゴール数が仲川と同じ15点もしくはそれ以上になる確率は、15点以上を示す赤色の棒の高さを足し合わせた値となり、計算すると約9%となる。つまり、平均的な選手が今シーズンの仲川と同じシュートチャンスを100シーズン分経験した場合、そのうちのおおよそ9シーズンでしかゴールを15点以上奪えないことになる。この9%という数字に仲川のシュート能力が反映されていると考えても良いだろう。
他の選手に対しても同様のシミュレーションを行ったが、対象選手の中で9%より低い値を示した選手は仲川以外にはいなかった。ゴール期待値という視点から見ても、仲川は最優秀選手賞にふさわしい選手だと言える。

図2. 横浜FM 仲川輝人のシュート位置の分布。ゴールになったシュート位置を黒枠で囲んでいる
次に、仲川のシュート位置およびゴール期待値の分布を見てみよう(図2、3)。図2(上)を見ると、ゴールエリア内で打ったシュートを多く外しているように見えるが、ゴールに近い位置であってもDFやGKにシュートコースを塞がれることが多いため、ゴール期待値はそれほど高くならないケースも多い。実際、仲川が放ったシュートの中でゴール期待値が0.4を超えるシュートは3本しかない。特筆すべきは、仲川はそれら全てを取りこぼさずゴールにつなげている点だ(図3・下)。

図3. 横浜FM 仲川輝人のシュートに対するゴール期待値のヒストグラム
仲川は決定機で確実に決めつつも、ゴール期待値が0.4未満のゴールに関しても12点決めている。特に、ペナルティエリア右側でゴール期待値が0.1付近のゴールを3点決め、ペナルティエリア外側でも1点決めている。決めるべきシュートを確実に決め、決まりづらいシュートも多く決めた仲川は、チームに対して多大な貢献をしたと言えるだろう。
ゴール数と合計ゴール期待値の差分ランキングにおいて、対象を広げてシュート数が30本以上の選手まで含めると、中盤の選手が上位に入ってくる(表2)。中盤の選手はゴール期待値が低いシュートが必然と増えるため、その分ゴールを決めた際の差分が大きくなるからだろう。

表2. 2019 J1リーグにおいて、ゴール数と合計ゴール期待値の差分が大きい選手(オープンプレー中のシュート数が30以上の選手
シュート数30以上の選手を対象にした集計で仲川を抑えて1位となったのは、サンフレッチェ広島の柏好文だ。期待されたゴール数よりも5点も多くゴールを決めており、中盤サイドの選手ながら高いシュートパフォーマンスを発揮している。
図3・4に柏のシュート位置およびゴール期待値の分布を示した。仲川と違って全てのシュートがゴール期待値0.4未満に納まっているが、これは当然ながら彼らの役割の違いに由来するものである。シュートパターンは異なるものの、仲川と同様、柏は期待値0.2以上の比較的決まりやすいシュートをゴールに繋げつつ、期待値0.2未満の難しいゴールに関しても6本決めており、高い決定力を発揮していた。

図4. 広島 柏好文のシュート位置の分布。ゴールになったシュート位置を黒枠で囲んでいる

図5. 広島 柏好文のシュートに対するゴール期待値のヒストグラム
上記のとおり、ゴール期待値を使って選手のシュート能力を定量化することで、より緻密な分析を行うことができる。特に、MFやDFの選手はシュート数が少なくなる傾向にあるため、ゴール数など「良い結果のみを反映する指標」では評価しづらい面があった。それに対し、ゴール期待値はシュート1本1本に対する成功確率を与えるので、各シュートの難易度と実際の結果を比較して選手の評価することができる。
Football LABでは、今後ゴール期待値を掲載していく予定なので、ぜひみなさまのサッカー分析に役立てて欲しい。
※前線の選手ほどシュート数が多い傾向にあり、データに含まれる量も増えるので、「J1リーグの平均的な前線選手」とする方が実際に近い。
Football LAB 小栗 直己
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