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堅守の裏に、“堅攻”あり。無敗秋田の強さの秘訣とは
2020.10.27

 6月の開幕戦から「閃光」が止まらない。J3で首位を走るブラウブリッツ秋田は、ここまで23試合を終えて16勝7分け0敗と圧倒的な成績を残し、二度目のリーグ優勝および初のJ2昇格に向けてひた走っている。10月11日のセレッソ大阪U-23戦に勝利して開幕からの無配記録を「20」に伸ばし、Jリーグ新記録を更新したことも記憶に新しい。では、その秋田の強さを支える要因は何なのか。本記事では、今季の秋田の特徴やこれまで集積されたデータを整理した上で、その躍進のカギを読み解いていく。

 まず特筆すべきは圧倒的な守備の堅さだ。ここまで23試合を終えての失点数「7」は、2番目に失点の少ない今治と長野の「18」失点という数値と比べてもその鉄壁ぶりが判るだろう。その守備を支えるキーマンとして、まずGKの田中雄大(#21)とセンターバックの千田海人の2名は欠かせない。

 世にも珍しく、秋田には2人の「田中雄大」が在籍しているが、今季に加入してすぐ守護神に定着したGKの田中は、まず圧倒的なセーブ率の高さが目を引く。長い手足と俊敏性の高さが持ち味で、7月にはGKとしては珍しい「月間MVP受賞」を成し遂げた。今季はここまで全23試合に出場し、その73.9%にも及ぶ17試合で完封を達成。突出した個人能力を武器に、最後のとりでとしてチームを救い続けている。

 そんなGK田中は、ロングパスの供給源としても替えの利かない存在だ。のちに詳しく記述するが、秋田はロングパスによる攻撃を主軸としており、リーグ内で2番目のロングパス数を誇るGK田中は攻撃面でも小さくない貢献を果たす。また、GK田中の全パス数に対するロングパスの比率は86.4%で、これはロングパス数1位の内山圭(同比率は49.9%、J3のGKの平均は48.6%)や3位の普光院誠(13.3%)の持つ値に大きく差をつける数値である。ここからは、チームとしてGKには徹底して前に長いボールを蹴らせる狙いを持っていることも読み取れよう。

 もう1人の守備のキーマンはセンターバックの千田海人だ。彼のハイパフォーマンスを象徴するのが次の事実
―千田が出場した22試合でチームが喫した失点が“5”であるのに対し、彼が唯一欠場した1試合にて、秋田はシーズンで唯一の複数失点を喫している-だろう。
その1試合であるC大23戦では終了間際の逆転弾で辛うじて勝利をもぎ取ったものの、秋田としては彼の存在の大きさを改めて実感する結果となった。データ面に着目すると、まず空中戦での強さが目を引く。これまでの総数である241回は、2位以下の数値と大差をつけてリーグトップに躍り出る数値だ。そして、その圧倒的な高さは攻撃時にもチームを助ける。空中戦を敵陣に限定した際も、FWぞろいのランキングの中でDFながら堂々の6位に名を連ね、その「無双ぶり」がうかがえる。今季はここまでセットプレーから3ゴールをマークしており、今後もターゲットとしての活躍にも期待がかかる。
 また、コンビを組む韓浩康との「あうんの呼吸」も秋田の堅守には欠かせない。どちらか一方が相手アタッカーに厳しく付いて競り合い、もう一方がこぼれ球を素早く回収してセーフティーにかき出すというシーンは何度も見られる。リーグ全体のクリア数ランキングでは千田と韓浩康が2位と3位に並んでおり、この「双璧」の貢献度もしっかりとデータに表れている。

・堅守の裏に“堅攻”あり

 ではチーム目線で見たとき、その堅守および躍進の要因は何であるのか。数々のデータおよび実際の試合を参照した結果として、ここでは秋田の「特異な攻撃スタイル」にその要因があるとみて論じたい。

 「特異な攻撃スタイル」とは何であるのか。一言で言えば「しぶとく耐えながら、奪えばロングパスを素早く前線に当てて好機を狙う」サッカーだ。それを象徴するデータとして、まずは「どれだけボールを保持しないか」の各データを参照したい。

・その1:バックラインから放り込め

 上図の左側で明らかな通り、順位とは真逆に「主体的に保持する姿勢」は最も低い。したがって、右上のロングパス“数”もそれほど高い数値とはならないが、全パス数に対するロングパスの“比率”は19.2%でリーグトップ。また、図にないデータとしては、全パス数のうち「自陣から自陣へのパス」本数が1853本で最も少なく、同値は2番目に少ない岐阜の値(2722本)と大きく離れていることも興味深い。これらのことから、バックラインから丁寧につなぎながら攻め込むという方向性は持たず、中盤を省略して一気に蹴り込むという方向性を徹底しているさまが確認できよう。

 類似したデータとして上記の図に示したものも挙げられる。ディフェンシブサード(DTと表記)から中盤を省略して一気にアタッキングサード(ATと表記)へ至っているパスの本数が群を抜いて多く、同じくクリア数も大差をつけて1位に躍り出ている。先ほどは千田と韓浩康が個人としてクリア数ランキングの上位に名を連ねていることを述べたが、チーム全体としてのクリア数もかなり多いようだ。この2つのデータから考えられることは、バックラインから大きく蹴ったボールがパスであれクリアであれ、ピッチ上の意図として共通しているのは「最優先で大きく前に蹴り出し、一気に前線での好機につなげる」ことだ。

・その2:最前線で競り合え

 では、蹴った先として、前線はどう呼応するのか。

 ロングパスの供給数が最も多いため、その分敵陣での空中戦回数が多くなるのも当然ではある。その数値も、「供給先」の各データと同様に突出したものとなっている。また、個人データでは中村亮太、千田、齋藤恵太の3人が並んで上位に名を連ねており、前線へ放り込む狙いがチームとして徹底されていることがここにも表れている。中でも中村は、他のランクイン選手の半分ほどの出場時間ながら6位に位置しており、その敢闘ぶりは顕著だ。
低い位置から放り込んで一気にゴールまで迫った場面の象徴として、岩手との開幕戦で奪った齋藤のゴールを取り上げたい。
<1節 岩手戦 27分 齋藤のゴール ハイライト動画より>

 しかし、前線に蹴り込み続けても、その後の攻撃につなげるのは容易ではない。リーグ2位タイの39得点を奪うまでに至っている攻撃陣には、ただ「競って勝つ」だけではない策がある。


・その3:セカンドボールを奪い取れ

 1つ目は、競り合った後のこぼれ球に対するハイプレスだ。図の通り、ロングボールに対して前線の味方が競り負けても、相手が十分にはね返せなかった場合にはまだ好機が続く。ボランチを中心に、サイドハーフやFWの相方がこぼれ球を拾おうとした相手に素早く強烈なプレスを掛け、奪い返しに行く。狙い通りここで奪えれば、相手の陣形が整う前に縦に通すことも、サイドの味方にはたいてクロスからの波状攻撃に持ち込むこともできる。


 この狙いはデータにも極めて顕著に表れている。エリアを限定しない場合、マイボールを失ってから5秒未満で奪い返した数は244回でリーグ14番目の数値であるのに対し、奪取位置をアタッキングサードに限定した際の数は76回となり、熊本に次いで2番目の数値を記録する。こうしたシーンの象徴では、次のゴールシーンが挙げられる。
<13節 沼津戦 68分 沖野のゴール ハイライト動画より>


・その4:困ってもセットプレーがある

 2つ目の狙いは、競ったあとのルーズボールをセットプレーにつなげることだ。そのカギを握るのが、リーグ屈指のプレースキッカーである江口直生と、「強肩」自慢の鈴木準弥。上のデータから分かるように、江口はCKからのクロス成功数が、鈴木はロングスロー数が2位以下に大差をつけて1位に躍り出ており、彼らの存在は秋田にとって欠かせない。チームとしても、97回のロングスロー数は突出してリーグナンバーワン(2位は今治で27回)に躍り出る数値で、これをシュートチャンスにつなげる狙いが改めて読み取れる。そして、肝心のセットプレー絡みの得点数(CK、FK、ゴールキック、スローイン、キックオフでのリスタート)は以下の通りだ。

 このように、セットプレーから3プレー以内の得点数は16、シュート数は136と、こちらも両者ともにリーグ1位の数値だ。中でも後者は2位以下に大きな差をつけてトップに立っており、いかにチームとしてリスタートからのフィニッシュを一つの明確な形として狙っているかが分かるだろう。リスタートから奪った得点としては、それぞれCK、FK、ロングスローからの得点として次の3つを取り上げた。
<15節 今治戦 34分 千田のゴール(CKから)ハイライト動画より>
<19節 岩手戦 23分 江口のゴール(FKから)ハイライト動画より>
<2節 福島戦 65分 茂のゴール(ロングスローから)ハイライト動画より>



・“堅攻”の内実やいかに

 以上の内容をまとめると、秋田の攻撃の特徴は
・徹底して、バックラインから前線に大きく蹴り込む
・相手のはね返しが中途半端ならば、前線からの強力なプレスで奪い返しに行く
・ロングスローも含めたセットプレーを生命線としている
ことが挙げられよう。

これをもう少しかみ砕くと、なぜ「徹底して大きく蹴り込む」かについては、
・前線の味方が競り勝てば、そのまま相手の陣形が乱れた隙に速攻を展開できる
・競り負けても、相手のはね返しが不十分な場合は、得意の高速プレスを発動できる
・相手がセーフティーにライン外へ逃げた場合は、得意のCKやスローインを得ることができ、シュートチャンスがますます広がる
ことなどが考えられる。


・堅攻の裏に堅守あり

 さて、ここまでしばらく「秋田の攻撃の特徴」について論じてきたが、元を振り返ると、この攻撃スタイルにこそ堅守の要因が秘められているという仮説を立てた。まず、「徹底して大きく蹴り込む」というメインのスタイルは、当然ながら相手の次なる進攻の可能性を大きく遠ざけることと同義である。すなわち、秋田にとってこのスタイルは、明確な攻撃のスイッチでもありつつ、セーフティーな守備対応のファーストチョイスでもあるのだ。そして、相手に触られた後の前線での高速プレスは、守備の面からみると「相手のカウンターチャンスの芽を摘む」効果も有する。前線で即席の「防波堤」を作り上げ、そこで奪い返せれば自分たちの2次攻撃へ、できなくても一瞬相手の余裕を奪うことでバックラインを整える時間を作り出せるため、これもチームの堅守には欠かせない要素だ。5秒未満で奪い返した回数“全体”の数値は低いというデータが示す通り、進攻させること自体はある程度許しつつも、バックラインが整いさえすれば千田らの「鉄壁」が待ち構えているため、チームとしては十分に安心できる。

 以上が、首位秋田を支える強さの要因ではないかと考察する。しかし、もう一つの重要な要素にも触れねばならない。それは、こうしたチームとしての戦い方が、各選手にしっかりと浸透していることだ。前線の2トップを中村、齋藤、井上直輝、林容平、田中直基の5人で争いながらそれぞれ出場を重ねているように、個々の特徴によって細かな違いはあれど、チームとして“誰が出ても”大きく崩れない戦績が何よりの証左だろう。また、今回は紹介していない沖野将基や茂平も、両サイドでの「回収役」としてしっかりと役目をまっとうし、ゴールシーンにはたびたびその背中が映る。

 シーズンもいよいよ終盤戦。徹底した共通意識と割り切ったタフなサッカーで今後も勝ち星を積み上げ、悲願の昇格を果たせるか。「青いイナズマ」の進撃に、今後も目が離せない。


執筆:荒井 秀斗


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