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スローインからの攻撃とその評価を考察する
2020-12-11 15:00 RSS

スローインはサッカーの試合において必ず発生するプレーの1つだ。理論上はタッチラインを越えなければ発生しないので0本で終わる可能性もあるのだが、今季を含めたここ5シーズンのJリーグにおいてスローイン数が0で終わった試合は存在しなかった。フィールドプレーヤーが手でボールを扱えるこのプレーからは、どういったデータが生まれるのだろうか。

スローイン数と成功率の年度変化

2016年以降の1試合1チーム平均のスローイン数は、20本前後~30本となっている。そして、その本数はどの年もJ1が最も少なく、J2、J3とカテゴリーが下がるとともに増える点も興味深いところだ。スローインの発生起因は、攻撃面ではボールコントロールのミスやパスが合わなかったケース、守備面ではクリアやブロックなどが該当するため、相手チームの攻撃時のミスが少なく、守備直後のボール保持意識が高ければスローインは発生しづらくなると言える。このグラフからは年度による減少という特徴も見えるが、これはボール保持意識の変化による影響が大きいと推測される。そちらについては別記事にて改めて紹介しよう。

併せて掲載しているスローイン成功率もわずかながら同様に年度変化が起きている。この場合の成功率はスローイン自体が味方に渡ったかどうかの割合を意味しており、こちらのチームスタッツは弊サイトにも掲載している。名前だけ見ると、この「スローイン成功率」をスローインの評価としても良さそうだが、この年度変化からも推測できるように、スローイン成功率もチームのスタイルの変化による影響を受けている可能性が高い。

スローインを細かく分析するためには、まずスローインのシチュエーションを明確にする必要がある。分析対象がJ1リーグのみとなってしまうが、トラッキングデータも利用して2016年以降のJ1の「スローインを受けた際の相手選手との距離」「スローインを受けた選手の受けるまでの3秒間の移動距離」「スローインを受けた際の前方の相手人数」といったデータからk-means法を用いて5種に分類した。地上・空中問わずに競り合いが生まれるようなスローイン、動きながら受けるスローイン、後ろに戻すスローイン、といったシーンの区分けを目的にデータを選択。スローインの「意図」のデータは取得していないため、そのままボールアウトとなった事例はこの分類の生成上から除外している。

スローインを分類 Type 1とデータの見方

スローインを分類 Type 2,3

スローインを分類 Type 4,5

上図は分かれた5タイプを前方相手人数の平均値の順に並べたもの。細かい点で例外があるが要約すると、
Type 1…相手が近くにいない後方の選手へ渡す型
Type 2…ゴール方向の相手の人数(守備人数)が多いため、スローインに対して厳しくチェックされない型
Type 3…受け手の動きが大きく、相手もそれに対してチェックに行く型
Type 4…動きが少ない中で競り合いが発生する型
Type 5…受け手の動きが大きく、相手の裏を狙うような型
と言える。シチュエーションでいえば、ロングスローによるペナルティエリアでの攻防も別の1種としたいが、本数が少ないため、今回は主にType 4に含まれる形としている。

スローイン分類の代表的なシーン

スローイン後のデータがこの5タイプでどれくらい異なるのか、スローインからの攻撃結果や、奪われた後の相手攻撃結果も交えて図にまとめた。

スローインタイプ別の攻撃データ

スローイン単体の成功率はプレー位置が前方になるにつれて低くなるが、空中戦を伴うType 4や、ゴールへ近いType 5は、他の3タイプに比べて30%近く低下する。(スローイン→ボールアウトの事例を省いているため、Type 5のようなスローインの成功率は実際にはもう少し下がると推測される)。前述したように、この場合の成功率はスローインの直後に味方がプレーしているかどうかで判断しているため、例えばスローイン直後の空中戦で負けた場合はスローイン成功とはならないが、その後スローインチームが拾ってプレーを継続できれば、スローインからの攻撃としてロストしたことにはならない。このスローインとその直後を評価するために、スローインから5秒未満にシュートに至ることなくロストした割合も掲載した。こちらのデータを見ると、Type 3とType 4,5の数値は成功率ほどの差は生まれなくなる。Type 3,4,5は受け手の近い距離に相手選手がいることで混戦になりやすいため、一連のプレーをグループ化することで、チームとしてスローインからの攻撃がつながっているかを見る必要がある。

さらに付け加えれば、スローインからの攻撃が早々にロストとなっても、すぐに奪い返せれば再び攻撃に転じることができる。Type 1でのロストは予期せぬ被カウンターの状況となり、シュートに持ち込まれる可能性が高いため、ロストそのものを防がなければならないが、エリアが高い場合や、混戦によって人が集まっている状況であれば、奪い返すことも可能。よってロストの次の攻撃のデータも評価の対象と言える。

スローインType4の2020チームデータ

競り合いのケースが多いType 4の2020年J1のデータを見てみよう。左表はType 4の発生比率の順に並べており、一番上にある柏は柏のスローインのうち27.7%がType 4のスローインであることを意味する。逆に川崎Fは13.3%であり、このType 4のスローインが少ない。左の表はあくまでチームのスタイルの1つを表したものであり、評価の対象ではない。

右の散布図は、横軸がType 4で5秒未満にロストした割合、縦軸がそのロスト後5秒未満に奪い返した割合となっており、発生比率が低いチームはエンブレムを薄くしている。比率が高いチームは全体的に散布図の右側におり、やはり競り合いが多いチームはロスト率が上がってしまう傾向にある。一方でロスト後に奪い返す割合はそれぞれだ。右上のFC東京、G大阪はロスト率を下げたいところではあるが、奪い返す割合も上位におり、決定的な問題には至っていない。比率が高いチームの中でいえば、柏、名古屋、横浜FC辺りのチームは、もう1段階ロスト率を下げるか、奪い返す割合を上げたい。本記事のデータでは奪い返すまでの時間を5秒に設定しているが、この選択は試合の状況(スコアと残りの試合時間など)にも影響する話なので、すぐ奪い返すことよりも撤退を優先する判断があってももちろん問題はない。

スローインType3,4の年度変化

本記事の序盤にスローイン成功率の上昇について触れたが、Type 3、4の年度変化からその要因を垣間見ることができる。3、4年前と比べて最も成功率が上昇したのが、このType 3,4だ。そして、その2種のスローイン直後に空中戦が起きた割合を見ると、2018年から減少傾向にあり、特にType 4は10%を切るようになった。また、今季のJ1,J2,J3全スローインのうち、直後に空中戦が起きる割合はJ1が2.7%、J2が4.7%、J3が6%となっており、カテゴリーとともに下がったスローイン成功率とは逆の傾向となった。今後、このスローインからの空中戦はさらに減るのか、また別の傾向を辿るのかは興味深いところだ。

スローインリスタート時間別のシュート率

スローインからの攻撃でもう1点注目したいのが、リスタートまでの時間だ。ボールアウトからスローインまでの時間は、交代や負傷者の発生などでストップとなるケースもあり、その他の場合でもボールパーソンの協力も必要となるため、プレーチームの選手だけではコントロールできないが、Type 1を除く全てのケースにおいて、5秒未満のリスタートから始まるスローインは攻撃内でシュートを放つ割合が高い。5秒未満のリスタートの場合、スローインの受け手に対して相手選手が2m未満に寄せる割合が低く、守備側の対応の遅れが1つの要因と言える。セットプレーに存在する「守備をセットする時間」を奪うことで、オープンプレーの継続のような形で、スローインからリスタートできるのだ。

横浜FMのリスタートデータ

今季の横浜FMは先に述べたスローインリスタートデータの象徴的存在となっている。Type 3,4,5において10秒未満でのリスタート割合が高く、該当タイプからのシュート率も高い。この3つの散布図において他の集団とは離れた位置におり、リーグの中でも特殊な傾向であることが分かる。もちろん、早いリスタートからの攻撃は単に早く始めればいいというわけではなく、スローワー、受け手、できれば3人目の選手も動き出すことで攻撃として成立ができる。また、横浜FMの場合はスローイン以外のリスタートも早いため、チームとして統一されているのだろう。アウトプレーによって試合が止まり、集中が途切れたタイミングをも逃さない意識は、対戦チームにとって脅威と言える。

スローインは、コーナーキックやゴール付近でのフリーキックのように得失点に強く関与することは少ないが、何気なくボールを投げる1シーンにもチャンス、ピンチの起因となる側面を持っている。あらゆる状況下で起きるプレーだからこそ、チームにとって最良の判断ができるように準備を行いたい。

八反地勇

2020-12-11 15:00 RSS
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