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トラッキングから生まれる新データ 4.守備ブロック(コンパクトネス)
2023-03-14 14:00 RSS

サッカーのデータ分析にトラッキングデータが加わったことにより、シチュエーションに沿った区分けができるようになった。例えば、グラフィックページにて自陣から敵陣へのパスの図を過去に紹介したが(参考:「2021J2第23節全チームの自陣から敵陣へのパス集」)、エリア間を限定したパスでも相手の最終ラインが高ければ相手の裏を取ってチャンスにつながる可能性があるシーンとなるが、相手が全員自陣に引いた状態であればまだ遠い状況と言える。コラム「トラッキングから生まれる新データ 2. プレス及びプレッシング」で紹介したプレスもシチュエーション分類の一つだ。ボールキープやパスを出す際、相手が近寄っているか相手が近辺にいないかでは難度が異なる。今回はプレッシングのようなボールを奪いに行く行為の前段階とも言える「守備ブロック」のデータを紹介しよう。通常データスタジアム社がプレーデータの1つとして使用している「ブロック」とは異なるので注意して頂きたい。

■守備ブロックのデータとは

守備ブロックの事例

守備ブロックを組んでいる状況の割り当ては、「相手のM Fラインより手前でプレー」「相手の守備ブロックの外でプレー」「ディフェンシブサード、ミドルサードでのプレー」の3つの条件が数プレー続いた場合としており、上図のアニメーションのように条件外のプレーを1つ挟んでもすぐに戻した場合は1つの守備ブロックが継続している状態とみなしている(今後、様々な分析を経てこの定義は調整する可能性あり)。そして上図のように、守備ブロックの面積(上図内A)、最終ラインの高さ(B)、守備ブロックの縦幅(C)と横幅(D)などを計測して数値化。守備ブロックの面積はG Kを除いた選手でドロネー図を作り、その面積の総和としている。上図でいうと色を塗っている多角形の面積だ。

上記の定義とは異なる部分があるが、FootballLABではこの類似データをJ1のチームスタイルの一つとして2017年より掲載している(参考:「湘南ベルマーレ 2022 チームスタイル[コンパクトネス]」)。面積をコンパクトネスの指標としているため、上記の定義よりもさらに状況を限定しており、比較的同じプレー状況で比較できるように調整している。

こういった守備ブロックのデータはFIFAもすでに取り入れており、2018年大会のテクニカルレポートや、前回大会のマッチレポートでも下図のように紹介されている。2018年のデータはおそらく平均ポジションをベースとしたもので「守備ブロック」という状況を限定させたものではないと推測され、2022年の方も具体的なデータ定義が不明のため本記事で紹介するデータとの比較は難しいが、相手がボールを持っている時の陣形や選手配置面積の可視化が進んでおり、トラッキングを用いたデータの一種として定着しつつある。

FIFAW杯のレポートより

■守備ブロック面積と被シュート


守備ブロックの詳細データを見る前に、サッカーの変化を捉えておく必要がある。過去のコラムでも取り上げたように、近年のサッカーの試合では後方でのボール保持が増え、ゴールキックを短いパスで始める機会が以前よりも増加。これにより守備の開始も高い位置となったが、オフサイドの適用の境界は以前と変わらずハーフウェーラインにあるため最終ライン位置はその近辺に保つ必要がある。この影響により縦幅が広くなり守備ブロックの面積が広がることになる。こういった高い守備ブロックと後ろを固めるような低い守備ブロックを同列で比較するのは難しいため、各守備ブロックのFWラインの位置からハイ・ミドル・ローの3種に分類した。

その上で各守備ブロックを敷く時間とプレッシングの時間は1試合でどれくらいあり、どう変化したかを下図にまとめた。守備ブロック中のプレッシングは、プレッシングの時間として処理している。

プレッシング、守備ブロックの時間の年度変化

目立つ変化が起きているのはやはりハイプレッシングの時間だ。全体的にプレッシングの時間が増えているため守備ブロックで構えている時間は減っているが、その中でハイブロックのみ増加。ハイブロックは高い位置でボールを奪いに行く準備段階とも言えるため、ハイプレッシングのデータとリンクしている。

では、具体的に守備ブロックの違いがどれくらい数値に影響するのか。2021,2022年のデータからその違いを下記にまとめた。

守備ブロックの面積の分布

面積の分布を見ると、ハイブロックは約800〜1000㎡、ミドルブロックは約600〜750㎡、ローブロックは約500〜600㎡近辺に集まる傾向となり、やはり低いブロックほど狭くなる。掲載を省略するが、最終ラインもハイブロックは高くハーフウェーラインから5mほどの距離に集まるが、当然低いブロックは低いライン位置となる。

守備ブロックといえば「コンパクト」がキーワードの一つだ。「コンパクト」の考え方も様々あるが、守備ブロックの面積とそこから攻撃内にシュートを打たれた割合を下表にまとめた。

面積範囲別の守備ブロックデータ

GPSを含めたトラッキングデータが生まれてデータ分析の幅が広がり、データ取得も身近になった一方で、「相手より多く走る」や「スプリントを増やす」など数値が目的化され過ぎているケースも見受けられる。今回でいうと守備ブロックの面積も狭いほど良いと思われがちだが、上述のようにプレッシングを行うかどうかでも異なり、また当然ながら守備ブロックを組んだ後、相手のプレーや動きに対してどう対応したかが重要となる。それを裏付けるかのように面積の狭さと被シュート率の低さは相関があるとは言えず、むしろハイブロックに関しては面積が広い方が被シュート率は低くなった。ハイブロックからプレッシングを行った場合面積は広がるため、ハイブロックを敷いたもののプレスにいけない中途半端な状況が悪い数値を生み出している可能性がある。

上表では攻撃内で被シュートに至った際のゴール期待値の中央値とゴール期待値0.1以上のシュート割合も併記した。Football LAB内のページおよびコラムにおいてKPIとしてシュート率を多く採用しているが、シュートの中には遠い位置から無理やり放ったようなシュートもあればゴール手前でフリーとなった決定機も存在する。こういった状況の違いを加味できるのがゴール期待値だ。ゴール期待値の詳細は過去のコラム「Jリーグのデータから作るゴール期待値」を参照して頂きたい。期待値で見ても守備ブロック面積との大きな関係はなさそうだが、ミドルブロックの際に600-800㎡の中間層のみ期待値が低く、600㎡未満と800㎡以上では高めとなっている。わずかな差ではあるが前者より後者の方が得点につながる可能性があるシュートを放たれているということになる。


変わって時間帯別にこのデータを抽出すると、また興味深い傾向が表れた。(点差による影響も考慮して点差が0の場合のみを対象としたため、終盤になるにつれて対象データ数は減少する)

時間帯別の守備ブロックデータ

こちらのデータだとどの守備ブロックも時間帯とともに面積が大きくなるとともに被シュート率も増加。ゴール期待値周りの違いはバラバラだが、最終ラインは下がったうえに守備ブロックの縦幅も長くなっており、いわゆる間延びした状況と言える。勝利を狙いに行く意識と積み重なった疲労の影響が推測され、前半序盤のような数値を保つのがそもそも難しい面もある。こういった数値変化が表れることを念頭に置いた上で後半終盤の守備を設計しなければならない。


チーム別で見るとどういうデータとなったか。年度・ブロック種類別に被シュート率が低いチームのデータを下表にまとめた。

各守備ブロックのチームデータ

近年優勝争いの常連となりその攻撃力に目が行く横浜FMだが、守備ブロックの被シュート率においても6つの表のうち5つのランキングに名を連ねるほどの良いデータを記録。昨季3位で終えた広島も2022年のデータでは全ブロックにおいて5位となり、ミドル、ローブロックにおいてはゴール期待値0.1以上の比率も小さい。逆に被シュート率は低くても被シュートに至った際のゴール期待値が高めとなるケースもあり、札幌はその分かりやすい例と言える。マンマークがベースのチームは嵌れば強いが、崩された場合に大きなチャンスを与えるリスクもある。ローブロックトップの2021横浜FM、2022鳥栖も被シュート率が低くゴール期待値が高いケースだ。特に前者はラインが高く、裏を取られた際に大きなチャンスを与えることになる。このように、完璧な守備ブロックを作るのは容易ではないのだ。


■相手の守備ブロックに対する攻撃側のデータ


ここまでは守備ブロックを敷いたチームを主語にデータを紹介したが、ここからは相手が守備ブロックを敷いた時の攻撃側のデータを紹介しよう。まずはコラム「トラッキングから生まれる新データ 1. 裏抜け」で紹介した裏抜けのデータを相手の守備ブロック時に限定して比較した。

対守備ブロック時の裏抜けとシュート率

守備ブロックを敷かれ、且つプレッシングを受けないような状況だとプレーの選択肢に悩んで停滞してしまうケースはよくある。この場合、相手の陣形を動かすようなボール運びを行うか、もしくはボールを持っていない選手が何らかの変化を起こす必要があり、裏抜けは後者の手段の一つだ。オフサイドを奪えれば問題ないが、それを掻い潜る位置とタイミングで裏抜けを行った場合、DFは対応する必要があり守備の陣形に変化が生まれる。この影響は大きく、上図のように裏抜けを1回以上試行した場合となかった場合では、相手の守備ブロックからのシュート率に大きな違いがあった。このシュート率には裏抜けを行った選手がシュートを放ったケース以外に、裏抜けにより空いたエリアを攻略した場合ももちろん含まれる。「静」の状況からいかに「動」を作り出すかが攻略の糸口となる。


オンザボール側のデータからは相手の守備ブロックに対する打開方法を調査するために、守備ブロックの最後のタイミングのプレーを抽出し、そのプレー先がサイドか中央(ペナルティエリア幅)か、パスの距離種別(ショート…15m未満、ミディアム…15m以上30m未満、ロング…30m以上)、パス先がサイドの場合のみ逆サイドからのロングパス(サイドチェンジ)、そして10m以上前進したボールキャリー(ドリブル含む)の計9種に分類。図のヒートマップはプレー先エリアの多さを表し、矢印はエリア間のルートの多いものを掲載した。太字の数値はそのプレーから同攻撃内へシュート至った割合で、もう1つの試行割合はそのプレーを選択した割合を示している。

相手がハイブロック時の打開プレー

相手がミドルブロック時の打開プレー

相手がローブロック時の打開プレー

全体的にシュート率が高いのは中央への10m以上の前進キャリーとなったが、このプレーは奪われた場合に即カウンターを受けてしまうリスクがあるため、試行割合はかなり低い。そういった点から縦へのロングパスか、サイドへ展開して前進する形が多くなるが、シュート率は低い傾向となる。とはいえ、サイドからの前進は同攻撃内でシュートへ至らなかったとしても相手のクリアなどでスローインを得ることによって少しずつゴールへ近付けるメリットもあり、ボール保持の攻撃があまり得意ではないチームの場合は重要な手段の一つだ。

上図それぞれの右下にあるサイドチェンジロングパスも試行割合が低いながらシュート率が高い手段の一つだ。「対角線のパス」とも呼ばれているこの手段は、ボールを持っているサイドから一発で逆サイドのスペースを突けるため、通れば一気にチャンスへ近付ける。ただし、良い傾向なのは相手がハイもしくはミドルブロックのケースのみで、ローブロックの場合はシュート率が最下位にまで落ちる。ローブロックは最もコンパクトなため、逆サイドのDF以外の選手も守備のサポートに行ける点が影響しているのだろう。


少ないながらシュート率が高い中央へのボールキャリーやサイドチェンジロングパスを誰が最も成功(相手に奪われることなく次のプレーを味方が行ったケース)させたか。下表に全ての守備ブロック時における合算値をまとめた。

対守備ブロック時の中央へのボールキャリー、サイドチェンジロングパスの選手データ

選手名横のチーム名は当時の所属を掲載しているが、2021年のデータだと多くの選手がすでに別のチームへ移籍しており、現代サッカーにおける後方ポジションの選手にとって評価されるスキルと言える。ボールキャリーについては本記事では10m以上前進という基準にしているため、大胆に前へ運んだケースとは異なる。例えば2022年トップのヨニッチは、長い距離のキャリーがそこまで多い選手ではない。相手が守備ブロックを形成した際に少し前進して相手をある程度ズラしたところでパスを放つような判断をしているのだろう。


相手が守備ブロックを敷いた際の攻撃側のチームデータも紹介しよう。年度・ブロック種類別にシュート率が高いチームのデータを下表にまとめた。

相手が守備ブロック時のチームデータ

守備側のデータで横浜FMが6つのうち5つに含まれていると書いたが、攻撃側でも同様の結果となった。横浜FMの場合、相手よりボールを持つ展開が多いため、対守備ブロックの件数も多い。その中でもシュート率が高いため、当然シュートの数そのものが多くなりゴール数につながる。

2022年のデータでは対ミドル、ローブロックにおいて降格した清水がトップとなった。得点王を輩出しているだけに攻撃力を持っていたが、清水は守備側のブロックデータが悪く試合結果には結びつかなかった。

2021年の対ローブロックの仙台はシュート率が1位ながら0.1以上のゴール期待値の比率が極端に低い珍しいケースとなっている。上述したようにローブロックの場合は闇雲にシュートを打つような場合もあるため、もう一段階相手を崩し切ることができなかったと言える。


最後に、チームデータを作成した際に2021年と2022年のローブロックのシュート率の差異が気になったため、年度変化を抽出した。

守備ブロック別のシュート率年度変化

ハイプレスの重要度が高まるとともにハイブロックの精度も上がり、同データは2016年から最も変化している。他のブロックは小さな変化だったが、2021年のみローブロックのシュート率が大きく下がった。このシーズンはシュート数自体が少ない年だったため、それがこちらのデータにも影響している。その要因はレギュレーションにあるだろう。2020年に降格がなかったことにより20チームでリーグ戦を行い4チームが降格するという年だった。シュートを打たせないという守備意識と安易なシュートで終わらせたくないという攻撃意識が交差した結果かもしれない。

本記事で紹介した守備ブロックと以前紹介したプレッシングを合わせ、相手の陣形をどう崩したかや、選手の配置(フォーメーション)の噛み合わせによる違いなど、様々な分析に発展させることができる。今後も機会があれば紹介していきたい。

八反地勇

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