HOME » 選手のトラッキングスタッツから2023J1前半戦を振り返る
明治安田生命J1リーグは第17節を終えて前半戦が終了。正しくは2試合まだ開催されていない試合があるが、代表戦の影響でリーグ戦が一週中断するこの機会にこれまでのトラッキングスタッツを振り返ってみよう。5試合終了時に掲載したこちらの記事「
選手のトラッキングスタッツからJ1開幕5試合を振り返る」も併せて参考にして頂きたい。
まずは相手の守備組織の破壊、そしてゴールを奪う上で欠かせないオフザボールの動きである裏抜けのデータだ。第17節終了時点の裏抜けラン数の上位は下図の4人となった。
※裏抜けラン回数トップ4のラン軌跡。赤いほど速い動き。
※裏抜けラン回数トップ30の選手の裏抜け頻度と裏抜け後のレシーブ率
回数でトップとなった浅野雄也(札幌)は頻度(出場時のチームのボール保持時間÷回数。浅野の場合、札幌のボール保持約80秒につき1回ペース)においてもトップとなった。全体的に裏抜け頻度が高い選手はレシーブ率が低くなるが、今季における浅野の活躍を思えばこのダイナミックなランがチームに貢献しているのは間違いない。レシーブ率が高い傾向にありながら、かつ頻度も多い選手には岩崎悠人(鳥栖)、小柏剛(札幌)、キャスパーユンカー(名古屋)らが該当する。保持時の他の味方選手が常に彼らの動きを視野に入れているのだろう。逆にこの中では頻度が少なめながらレシーブ率が高い選手であるマテウスサヴィオ(柏)、鈴木優磨(鹿島)は裏を取る以外のタスクも多い選手で、オフザボールの動きが捉えづらい選手と言える。
※裏抜けラン回数トップ30の選手の裏抜け時の平均時速と120度以上の方向転換試行比率
開幕5試合の記事で方向転換のデータを紹介したが、今回は裏抜けランに紐付けて紹介しよう。裏を取る動きは相手DFとの駆け引きが多く存在し、その中の一種が走行前、走行開始時に逆方向へ動いてから裏へ駆け出す動きだ。上図は裏抜けランの中でそのような方向転換を行った比率と裏抜けランの平均時速を散布図に表している。例えば永井謙佑(名古屋)は方向転換比率が低く時速が速い域におり、直線的な動き出しで裏へ駆けていることが分かる。このデータは選手の特徴とチームのスタイルの両方が影響しており、カウンターのようなシチュエーションの場合は直線的な走り出しになりやすい。同じ平均時速域でも細谷や岩崎は反転ランが多い傾向にある。
上記はトラッキングから抽出したオフザボールも含めた裏抜けランのデータだが、次のデータは裏を取ったプレーのトップ5だ。プレーデータではあるが、トラッキングデータにより相手のラインを判定できるため、プレーデータも相手の配置に応じたデータの出力が可能となる。2022年のFIFAワールドカップで公式サイトに掲載されたラインブレイクもこれに類似したデータだ。下記のDFライン突破プレーはDFラインの手前からパスもしくは自らボールを運び、相手DFラインの裏でプレーを行えた場合にカウントしている。これまで同様、頻度(出場時のチームのボール保持時間÷回数)の数値と、DFライン突破プレーがドリブルやキャリーによるものだったかどうかの比率をまとめた。
※DFライン突破プレー数トップ30の選手の頻度とドリブルキャリー比率
DFライン突破プレー数でトップだった金子拓郎(札幌)は保持時間辺りの頻度もマテウスカストロ(名古屋)と共に高い数値を記録。金子の場合はドリブルがメインではあるが、プレー軌跡を見ると逆サイドへのロングパスを通したプレーもある。逆にマテウスカストロはドリブル以外の選択肢も多彩で長短それぞれのパスでも記録しており、紺野和也(福岡)も似たような特徴だ。ほか、ドリブル0%の選手の中から香川真司(C大阪)と伊藤涼太郎(新潟)を取り上げたい。中央のポジションを担う彼らのDFライン突破パスのうち9割以上が相手の選手間を通しており、狭いスペースにおけるテクニックが際立つデータを残している。
守備のデータからは前回同様にハイプレスとミドルプレスの選手データを紹介しよう。こちらの頻度は出場時における相手チームのボール保持時間÷プレス数となる。
※ハイプレス数トップ30の選手の頻度と守備成功率
上図のグラフ上、右上の部分がハイプレスの頻度が多く、かつ守備成功率(5秒未満に相手の攻撃を終わらせて自チームの攻撃権を得た割合)が高い選手となるが、大迫勇也(神戸)、アンデルソンロペス(横浜FM)、ナッシムベンカリファ(広島)、小泉佳穂(浦和)といった上位にいるチームの選手が並んでおり、前線からの守備が要求される時代であることを示している。
逆にグラフの左側にいる選手の中から小野裕二(鳥栖)と細谷真大(柏)に触れておきたい。グラフの密集から離れて頻度=高・守備成功率=低のデータとなっている彼らだが、この理由は異なる。プレスは1人で取りに行く場合もあるが、現代サッカーではチームとして連動して取りに行くケースが多く、後者の場合は「プレッシング」としてデータを取得している(※コラム「
トラッキングから生まれる新データ 2. プレス及びプレッシング」参照)。上記のデータは該当選手の単一のプレス結果を見ているため、プレス直後で相手の攻撃が継続していたとしても連続したプレッシングにより最終的に奪えているケースも存在する。小野のハイプレスはチームのプレッシングの中で行われたものが多く、小野本人が奪えなくても最終的にチームで奪いに行く設計がされていると考えられる。逆に細谷はプレッシング外のハイプレスが多く、連動性のない単発的なハイプレスになっていると考えられる。マテウスサヴィオも同様の傾向であることから、チーム全体の課題と言っていいだろう。
※ハイプレス数トップ30の選手のハイプレス時のコンタクト率とパスコースカット率
ハイプレスの動きそのもののクオリティーを導き出すのは難しいが、現在取得している中からコンタクト比率とパスコースカット比率をグラフで表した。ハイプレスはボール保持者に寄せながらもある程度一定の距離を保つケースと、相手の懐に入り込み直接的にボールを奪いに行くケースがあるが、コンタクト比率は後者の割合を示している。これが交わされた場合、相手に前進を許す結果となるので確実に奪う必要がある。もう一つのパスコースカット比率はボール保持者に寄せつつもその動きの中で別の相手選手とのパスコースを切っている場合にカウントしている。先に紹介した大迫はこの2つのデータにおいても高い数値を示し、山岸祐也(福岡)も追随している。
※ミドルプレス数トップ30の選手の頻度と守備成功率
ミドルプレスのデータでは名古屋の相手の保持時間が長い影響もあり頻度が低い選手が掲載されているが、名古屋のミドルプレスの主役は米本拓司と稲垣祥だ。特に米本は相手の保持時間が長い中でも高い頻度となっており、さすがの運動量を見せている。ミドルプレスの場合は3列目の選手が中心となるため、回避された場合にチャンスを与える可能性が高まってしまう。よって頻度を高くして奪えるのであれば問題はないが、構えた上でここぞというタイミングで奪いに行く判断も重要だ。頻度高めで守備成功率も高めとなるグラフの右上側には様々な順位のチームの選手がおり、ハイプレスの時とは異なる傾向だが、その中でも日本代表入りを果たした川﨑颯太(京都)、川村拓夢(広島) [※体調不良により離脱]、伊藤敦樹(浦和) [※川村に代わって招集]の3選手が右上のデータ群の中にいるのは興味深い。こういったデータも将来的には代表選考をする上で重要となってくるのかもしれない。
これからシーズンは夏真っ盛りに突入し、これらのトラッキングスタッツにも大きな影響を及ぼすだろう。チームの勝利を目指す上で限られた運動量をどう配分し、効果的な動きを行うかが焦点となる。
八反地勇
2023.9.8
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